大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和43年(行コ)18号 判決

東京都八王子市八日町四五番地

控訴人

株式会社まるき百貨店

右代表者代表取締役

落合稔

右訴訟代理人弁護士

横山唯志

山崎源三

東京都八王子市子案町一番地

被控訴人

八王子税務署長

古島公明

右指定代理人

岸野祥一

熊谷考誌

河内孝誌

近藤一久

右当事者間の昭和四三年(行コ)第一八号不当課税処分取消請求控訴事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人訴訟代理人は、「原判決を取り消す。控訴人の昭和三七年八月三〇日の合併による清算所得の確定申告に対し、被控訴人が昭和四〇年四月八日付でなした更正処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴指定代理人は、控訴棄却の決定を求めた。

当事者双方の主張並びに証拠の関係は次に附加するほか、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

(控訴人訴訟代理人の法律上の主張)

法人が合併した場合における清算所得に関する旧法人税法(昭和四〇年法律第三四号による改正前のもの以下旧法という。)第一三条一項二号の規定は、その文意に照らし、合併法人が被合併法人の株主、社員または出資者(以下株主等という。)に対し、現実に交付した株式、出資の価額または金銭等(以下株式等という。)の総額、換言すれば、被合併法人の株主等が合併法人から積極的に享受する利益のみを所得とする旨を定めたものであつて、合併法人が現実に右株主等に交付するものではないところの、「合併法人が納付する被合併法人の清算所得に対する法人税額またはその法人税額にかかる地方税法の規定による道府県民税額もしくは市町村民税額並びに清算所得に対する事業税額に相当する金額(以下法人税等に相当する金額という。)」即ち「みなし交付金」までもを含むことを定めたものではない。このことは現行法人税法(昭和四二年六月一日施行)が、第一一二条一項一号に、被合併法人の株主等が合併法人から交付を受ける株式等の価額についての規定をおいているのと別個に、その第一一三条にみなし交付金に関する規定を設け、旧法と規定の体裁を異にしているところからも窺知し得るといわねばならない。それ故みなし交付金を被合併法人の清算所得金額に計上することを定めた旧法人税法施行規則(昭和四〇年政令第九七号による改正前のもの、以下旧規則という。)第二三条の一一は、旧法の委任のない事項を定めたものといわねばならないし、被控訴人主張の国税庁通達昭和二八年一〇月三一日直法一-一一九の四七(以下通達という。)もまた、旧法並びに旧規則による委任なくして合併による清算所得に対する法人税算定の方式を定めたものというべきのみならず、その計算式は、みなし交付金を合併法人が納付する清算所得に対する法人税等に相当する金額の総額に含むことを前提とする点で、旧法第一三条一項二号の趣旨を逸脱し、みだりに清算所得の範囲を拡張する結果をもたらしているから、旧規則第二三条の一一並びに右通達は、いずれも旧法の委任を受けない事項を定めた違法なもので、憲法に定める租税法律主義に反し無効であるというほかはない。

仮に旧規則第二三条の一一が適法であり、みなし交付金が被合併法人の清算所得金額に計上されるものとしても、控訴人の合併による本件清算所得についての法人税額を所定の百分比をもつて計算すれば、金六一〇万六、〇七九円となるに過ぎない。

従つて以上いずれの点からするも被控訴人のなした本件更正処分は違法であつて、取消されるべきものである。

(被控訴人指定代理人の法律上の主張)

旧法第一三条一項二号はその解釈上、みなし交付金を法人合併の場合の清算所得に含む趣旨のものであることを原判決の説くとおりであるから、旧規則第二三条の一一が、法人税等に相当する金額をみなし交付金として清算所得金額に計上する旨を定めたことは旧法の右条項の委任の趣旨に合致した当然の措置であり、(現行法人税法がその第一一三条にあらたに法人の合併の場合のみなし交付金に関する定めをおいたのは従前の旧法の解釈上当然とされていたことをただ明文化したものに過ぎない。)

また、前記通達は、旧法第一三条一項二号の趣旨をうけて行政庁の右法条についての解釈及び執行を公正ならしめるために定められたもので、そこに示された清算所得に関する計算式は、右法条の正当な解釈に合致するものであるから、これに基づく本件更正処分は法規の根拠に基づく適法なものである。それ故本件更正処分に控訴人主張の如き違法のかどはない。

理由

当裁判所は次の判断を附加するのほか、原審と同一の理由によつて控訴人の本訴請求を失当と判断するものであるから、原判決の理由記載を全部引用する。

控訴人は、旧法第一三条一項二号の解釈上、法人が合併した場合の清算所得中には、合併人が納付する被合併法人の清算所得に対する法人税等に相当する金額、即ちみなし交付金を含まないと主張し、縷々その理由を述べるけれども、ひつきよう右は独自の見解に立つに過ぎないもので、当裁判所は原判決説示と同一の理由により、右法条は、法人が合併した場合の清算所得に、みなし交付金を含む趣旨を定めたものと解するものである。しかして右のように解する限り、旧規則第二三条の一一は旧法第一三条一項二号の法意をなんら逸脱するものではなく、同条項の趣旨をうけてこれを具体化し、細目を示したものというのが相当であり、また被控訴人主張の通達もその内容たる計算式は、旧法並びに旧規則の右各条項の趣旨に依拠する計算方式を定めたもので、なんら右各条項の定める事項の範囲を逸脱するものではないと認められるから、旧規則第二三条の一一及び右通達が租税法律主義を定めた憲法の条項に違反するとの控訴人の主張は採用に由なく、なお本件において控訴人の納付すべき法人税額が、金六一〇万六、〇七九円であるとの控訴人の主張は、独自の計算式に基礎をおくものであつて採用できない。

そうすると原判決を不当とする控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古山宏 裁判官 川添万夫 裁判官 右田堯雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例